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批評なき業界

【1月3日】
きょうの「日本人論」:なんか勘違いして男性雑誌「月刊ランティエ」     
           というのを買ってしまった。
※松岡正剛氏の「日本人論」より抜粋
●「・・・日本流あるいは和風がブームといわれる。しかし、和食器や歌舞伎のすべてがいいわけではない。(本来の日本を、もう日本人は適切に思い出すことが出来なくなっている)」
●その原因(1)「・・・歌舞伎を例にとると、戯作として出来の良くないものもあり、ヘタクソな演技も多くて、江戸時代には辛辣な評判記がたくさんあった。そうした批評軸を取り戻す(必要がある)。伝統芸能や伝統技術は継承が危ぶまれたことから、これまで手厚い保護がなされてきた。これが今の「和」なら何でもいいという原因の一つである。」
◎原因(1)の対応策「もう一度評価を取り戻し、昔のものと現在のものを同時に価値を融合させる視点をつくりあげていかなければならない。」
●その原因(2)は長くなるので割愛。
※引用が長くなったが、まとめると、「和」なら何でもいいというわけではなくて、それらが「批評により鍛えられ洗練されることが必要」ということである。

※上記について、着物のことを思い浮かべながら読むと、納得できた。いろいろな雑誌のタイトルを思い浮かべるに「ファッション批評」「レコード批評」「ジャズ批評」など、ある程度成熟した市場においては批評を主眼にしたものがある。着物の世界にはそれがないのだ。市場が成熟していない(あるいはかつて成熟して後、衰退し、保護されてきたといった方が正解か)ことの反証でもあるし、批評がない業界においては、何でもかんでも作り放題ということである。私がよく使うフレーズ「誰か止める人はいなかったのか」というのは、このあたりのことを指しているのだろうと思う。どの業界においても、批評者がすべて正しいというわけではないが、感性の合う批評者が次第にわかってきて、この人のいうことなら信用しようかな、というのが出来てくる。ファッション雑誌のスタイリストでも、この人のスタイリングは変だが、この人のは素敵だ、と次第にわかってくる。そのようなものだろう。
※で、作り手がいる、消費者がいる、その間に位置するべき批評者がいない業界では何が起こるかというと、業界は作り放題、販売店で呉服屋の舌先三寸で消費者は転がらされっぱなし、というのはご存じの通り。
※ただし洋服のファッションの世界では「流行=正義」なので、その共通の価値観があれば、たいした批評無しでも消費者はだいたい理解できる。着物の世界では流行がある部分と、動かない部分が混じっており、しかもその二つが別物であるということも理解されていないので、まずはその部分からの説明が必要だ。
※つまり、「これが着物のルールだ!」というのを遵守するあまり、おしゃれを楽しめないがんじがらめ状態に陥るか、「着物だったら、全部よそいきになる」という勘違いで、ディナーショーに銘仙で来るような「場違い」を演じてしまうといったような「ちぐはぐ」をまず整理する必要がある。
※その上で、「作家○○先生の新作」を「これは素敵だ」「これはあまりにも下品だ」あるいは「こういうタイプの人がこういう場面で着るにはいいが、それ以外は使えない」とか、そういうコメントを知ることの出来るメディアが今はない。もちろんレコードや洋服のような大量生産の普及品ではないので、全く同じような批評雑誌が可能とは思わないが、せめて「ここのところの傾向として、アンティーク風なら売れるということで多く作られているが、そもそもアンティーク風というものが何か、わかって作っているのだろうか」くらいのコメントがほしい。
※二大着物雑誌は業界からの借り物で成り立っているし(御用雑誌)、業界誌も傾向は伝えるがその是非についてはやっぱりぼかし気味である。
※結局、ちゃんとコメントが出せるほど実際に着ている人がいないのであろう。高いし、好みのあるものだから、自分には何が合うか、何が好きかはわかっていても、不特定多数の読者に対してそれぞれのニーズに合ったコメントが出せる人がいないのだろう。
※それならせめて、たとえば読者モデルにスタイリングする場合、複数のスタイリストで競合させてもらいたい。小柄な幼い感じの方にはこういう着こなし、と複数例提示してくれれば、読者も選びようがある。現状では「帯は同系色で視線を寸断しないように」という着こなしオンリーでは、本当にそうかな?と疑う私のようなタイプの人間ならともかく、素直な人はそのセオリーに縛られて、自分の着たいものに手を出せないこともあるだろう。
※そもそも着物のスタイリスト自体が人材不足であるようにも思う。これまでニーズがなかったから仕方がないことかもしれない。貧すれば鈍する。
※ここまで書いてきて、批評が成立する以前の段階かもしれないと、なんだか暗澹たる気持ちになってきた。明快な解決策が提示できなくてすみません。でも、そういうことが私ごときに出来るのなら、もっと早くなんとかなっていただろう。
タグ:業界

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