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哀しいキモノ本

【10月22日】
きょうのキモノ関連本:『きもの春夏秋冬』山下悦子・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582832377/qid=1098957124/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/250-3986908-6759452
※雑誌「美しいキモノ」に「明治・大正・昭和のメモワール」を連載している着物研究家のエッセイ集。着物や染織関係の研究者の多くには、自分では着ないという人も多い中、自分自身も着物を着て、着物の歴史も研究して、人にも教えて、という著者の仕事ぶりは評価されるべきだと思う。
 しかしなんというか、孤独・寂寥感・悔恨などが漂う、沈鬱な一冊。着物を着るだけでなく、仕事として長く携わっているうちに、いいことも悪いことも沢山味わってこられたためだろう。猜疑心・人間不信なども行間から漂ってくる。河野多恵子の小説を読んでいるような気がした。人間を見る目が妙にさめていて、明らかに尊敬すべきでない人間の描写はかなり辛辣だ。
 基本的に、着物を巡る業界に結構ひどい目に遭わされてきた人で、心の底に怒りや憤りが渦巻いているのが伝わってくる。着物が本当に好きな人だからこそだろう。私は単なる消費者で着る人間だが、それでも業界にはうんざりの部分も多い。内部にいれば、日々いやな思いが鬱積するのだろう。
 若い著者による着物エッセイの「経験薄弱」「脳天気」「多幸症」(キモノってこんなにステキ!系・醜いものは存在しないか見えないことにするか本当に知らないか)的なものか、そこそこの年代の、先生と呼ばれる人の「伝統だ、技術の継承だ的」なんか偉そうなものが多い中、貴重な一冊かもしれない。
 何が大事って、やっぱり実際の着心地と耐久性いうものをちゃんと書ける人は少ないのだ。これはこうやって作られる、ということは取材すれば書けるし、着心地の印象くらいは2回も着れば書ける。しかし、あらゆる気象条件で何度も着なければ、本当の真価はわからないし、耐久性も長く着用しなければわからない。足袋がほころびてそれを繕うとか、生地が弱ったものを使い回すとか、長い経験に裏付けられた文は説得力がある。
 また、寸法の大事さ(これは私も機会があれば力説するのだが、まあ影響力は全くない)を書いてくれているのはありがたい。ただしセンチと鯨尺が混じる文章はかなりわかりにくい。
※昨今の古着ブームについては辛辣な一言。「リサイクルというのは、飽きたり合わなくなったら次に回すということなのだろうか。」
 ご本人は「ケチなのと執念が深いから、一度手に入れた着物や帯は放さない」という。これに関しては、いろいろなことが考えられる。
 まず、ご本人は自分で稼いだお金できちんとしたものを揃えていること。何も知識も自分の好みもわからないうちに、呉服屋の言いなりで買わされたものではない。お母様が早くに亡くなられ、また戦争を挟んだため、家に沢山のものがあったわけではないこと。
 すでに家に、着ない着物があったら、今の家庭では無用の長物以外の何ものでもない。かつては親戚間での不要品のやりとりもあっただろうし、染め替え・仕立て替えなどの手間を引き受ける人材・業者も豊富だった。それが失われた昨今では、着物を持て余してしまっているのもある意味仕方がない。そういうものが市場に流出しているのは、嘆かわしいかもしれないが、タンスの中でカビていくだけよりはましではないかと私は考える。仕付け付のまま置きジミ、日焼けなどを被った古着を見るにつけ、ああ、こうなる前に放出してくれたら良かったのに、と思う。
 仕付け付きで古着屋に出てくる着物の幾ばくは、おそらく展示会で押し売りされたものではないかと思う。買い物失敗の証拠が家にあるのは心苦しいものだ。手放したくなる気持ちもわからないではない。そういうものでも、誰か着てくれる人がいるなら、と手放されるのは、まだ次の発展があるように思う。
 手放す人を責めるより、手放したくなるような売りつけ方を糾弾すべきだろう。また、私に限っていえば、新品の中に欲しいものがほとんどないので、古着を買うことになるという面もある。欲しいものを作ってくだされ。
 私の買う古着も、手をかければ再度日の目を見ることができるものが多く、それを少しずつ、きれいにしていくのが古着愛好者の使命かなと思う。
 ※着物関連本としては、生地の風合いなどを文章だけで描写しなければならないのがつらいところ。写真が少ないので、すでに見たことのある人か、ある程度の知識のあるひと人でないとピンとこないだろう。
※また、残念ながら文章が下手。何度か読み返さないと何を言いたいのか、誰を指しているのかわかりにくいところが多々あり、編集者がチェックしなかったのかな?と疑問が残る。
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